光圓流の棒術
当流には、流派名の由来ともなった『光圓の棒』という行法が伝わっております。
光圓の棒は、十九種の単式と五種の複式で構成されており、これらを組みあわせることによって、ほとんど無限に近い棒の使い方が可能となっていきます。
棒術は、あらゆる武器術の基本でもあります。
突く、打つ、薙ぐ、払う、刎ねる。すべての動作が左右両構えで扱えるため、均整のとれた身遣いが覚えられ、両手を同時に用いるので夫婦手〔めおとて〕や肚〔ハラ〕の感覚を養うのにも適しています。
尺を詰めれば、杖術にもなる。嚢〔フクロ〕構造のウメガイやナガサを先端に取りつければ、屋外の個人戦では最強の武具ともいえる槍としても扱えます。
棒のよさは、まず第一に気軽に振れるところでしょうか。真剣などは、持ち運びにも気を遣いますし、練習場所も選びます。
棒であれば、運搬や手入れも容易ですし、長さを切りつめれば屋内で使用することもできます。太さや重さや堅さも、材質や形状を変えることで調整できるのもよいところです。
光圓流では、七尺近い太い『大棒』を用いて稽古しています。
これにより、手の内や手首、また背中や足腰が重点的に鍛えられます。特に手首と背中を強くする効果は高く、ここで培われた地力が、当身や投げの威力にも直結してくるほどです。
『棒行』『鍛錬棒』という呼び方もしており、若い生徒や非力な生徒には、なるべく棒を振ることを推奨しています。
六尺七寸の大棒
タモ材なので適度な弾性としなりがある
扱いやすく応用も利き、地力の養成にも絶大な効果を発揮する棒術ですが、そればかりやっていると、当然ながらよくない面も出てきます。
手技が遅くなるというのが、まずひとつ。スナップを効かせた刻み突きのような動作が、どうしても鈍重になってくるのです。
(ただ、そこまでになるには相当量の棒行をこなさなければならないので、一般の練習生はあまり気にする必要はないでしょう。また、鈍重になるほど棒をやり込んだ場合も、解消する稽古法などを当流では個別に原因を探りながら指導していきます)
もうひとつは、自由な攻防になると重心や構えが崩れやすくなるというあたり。
『手の延長上に武器がある』というように、東洋の武術では無手と得物を同じ理合で取得していくのが通例でした。
しかし近代化が進み、武器術は様式だけは残していても、実際に試合などを行っている流派は少なく、なかば形骸化している事実も否めません。
一方で無手の格闘術は競技化が進み、急速な進化を遂げています。
武器術と体術の間に、乖離が生じていたとしても、おかしくはありません。
たとえば『間』の攻防について、武器術を中心にやってきた人ほど、無手では崩されやすくなるという傾向が顕著に現れることがあります。
このあたりの溝を埋める稽古法を、常日頃から取り入れておかないと『手の延長上に武器がある』という言葉も、空理空論で終わってしまいかねません。
得物を持つと、間合いの感覚が発達しますが、そこから無手の間に入って動けるかどうかは、また別の課題であるともいえるでしょう。
光圓流の棒の特徴は、融通無碍ということに尽きます。
ゆえに複式の演舞のような型というのは、最重要視はしておりません。
剣道やフェンシングの試合を観てもわかるように、得物を持った者同士の闘いでは、無駄な動きをしている余裕はまったくないというのが、その理由のひとつです。
(長い型は、無手同士の闘いでこそ必要となる。だから空手を通じて覚えていくのが、もっとも理に敵っているというのが、もうひとつの理由になります)
では棒で闘う際は、どのように対処していくのか。
他の武器術や体術でも同じですが、まずは必要に応じて充分な体制を整えておくということに尽きるでしょう。
得物が長くなると間も遠くなるため、複雑な読みの能力が問われます。
そこに歩法と体捌きを組みあわせて、最善手を打っていくというのが、第一段階になるでしょうか。
棒行は、そうした動きを可能とするための体づくりに、大いに役立ってくれるはずです。
光圓流では『大棒』を振ることを推奨していますが、ある程度まで体遣いが身についたところで、今度は細くて軽い『竹棒』を扱わせることもあります。
重たい棒で隅々まで鍛えられた身体には、竹の棒は驚くほど軽く、信じがたい速度で振れるはずです。その速度に、手足だけでなく身ごなしがついていったとき、また新たな視野や可能性も拓けてくるのです。
さらに高段者になると、櫂形の棒を用いて刃筋を通す感覚をつかみ、槍や長刀へも応用が利くようにしていきます。
七尺の櫂形棒
およそ2メートル10センチ。重さは7キロあまり。
四尺の杖と比べると、その巨大さが見てとれる。
このように、さまざまな鍛錬法を関連づけ、高度に体系化して伝えているところに、光圓流の独自性と優位さがあります。
棒術は壮年以上の経験者には、なるべく早い時期から指導するようにしています。目安としては、突き蹴りの外形が身についたあたり、緑帯程度からになるでしょうか。
膨大ながら合理的で確実に上達できる稽古体系に触れてみたい方は、ぜひ体験入門へいらしてください。
心身に癖のない初心者も、基本から練りなおしたいという経験者も、当流では快く受け入れております。